研究を始める

「研究と勉強の違いとは何か」について考える: 推薦図書

 

 小中高と学んできた学習法や大学1-3年までの勉強法と、大学4年次の卒業研究を皮切りとして大学院まで続く「研究」とは、その性質が大きく異なります。このため、大学3年生まではGPAなど、成績も良かったのに、大学4年次に卒業研究を始めたら急に大きな壁にぶつかってしまう人も多く、一方、3年次まではサークル活動などで忙しく成績もパッとしなかったのに4年生になったら研究にのめり込んでしまう人、研究が楽しくてしょうがない人も出てきます。これは日本に限った事ではありません。果たして個人の研究への向き・不向きというのはあるのでしょうか?

 

 同じように、社会人になってから、仕事が出来る人と出来ない人というのも個人差が出てきますし、特に自分で企画を任されるプロジェクトでは、その差が大きく出てしまいます。卒業研究とは、ある意味、社会に出て任されるプロジェクトの予行演習なのです。

 

 卒業研究を始めたとたん、学生の間で卒業研究の取り組みや成果に関して、どうしてこんなに大きな差が出てしまうのでしょうか?個人的な意見ですが、私は個人が研究や仕事に対して持っている能力の差というよりも、「研究とは何か?」「仕事(プロジェクト)とは何か?」「使える企画とは何か?」という事を知っているかどうか、理解しているかどうか、考えたことがあるかどうか、という事が、事態を大きく左右しているのではないかと思います。「何も考えなくても、その時になればなんとかなる」と思っていても、そうやって上手く行くのはほんの僅かな人たちで、ほとんど全ての学生さんたちが、遅かれ早かれ、何らかの壁にぶつかります。

 

  その時に大事なのは、「失敗を恐れないこと」です。最初から上手く行くはずはないのです。何度失敗しても、最後に(卒論発表までに)上手く行けばよい。あのエジソンだって、電球を発明するのに一万回も試行錯誤しては失敗しているのです。

失敗学のすすめ (講談社文庫)
畑村 洋太郎
講談社

 

 こんな話、言うのは簡単、聞いてナルホドと思うのも簡単で当たり前なのですが、いざ自分が壁にぶつかって(最初の)失敗をすると、落ち込んでしまう人が結構居るものです。研究なんて、仕事なんて、簡単さ!と思っている人ほど、その傾向が強いです。そうなってからではちょっと遅い(?)ので、私は学部2年ー3年のうちに、この記事の最後に紹介する本を読むことを勧めます。

 

 そうやって「勉強」と「研究」の違いを認識しておけば、失敗してもへっちゃらです。その小さな失敗が積み重なって、成功、いや大成功へと至るのですから。失敗とは、何かを学ぶために起こる現象で、実際は進歩に向けて、成功しているのです。その進歩の過程で、足りない部分が目に付いてしまうと(個人的な)失敗に見えてしまうのです。些細な事でも、ゼミ発表会の会場に居た、周りの目を過剰に気にしてしまったり。逆に、凄い学者でも、発表の場ではかなりの批判を受けます。有名な小説家や映画監督が新作を披露すると、記者会見の会場だけでなく、誌上でもかなりの批判を浴びますよね。あれと同じです。批判を浴びると言うことは、それだけ注目されている、気にされてるという(ポジティブな)事なのです。

 

 と言うわけで、卒業研究を始める前の学部生(1-3年)であろうと、研究室に配属になったばかりの4年生であろうと、いまひとつ研究が思っているようにスムーズには行かない大学院生であろうと、以下の本を一読する事をお勧めします。

喜嶋先生の静かな世界

 

 フィクションですが、著者の実体験を元に書かれていたような描写が多く、リアル感が強く説得力があります。この本の中で、研究と勉強との違いについて、見事に語られています。著者の森博嗣さんは国立N大学(名古屋大学?)の工学部で助教授(現在の准教授)をされていただけあって、研究室の様子や大学内の人間関係・心理描写が見事に再現されており、理系の学生さんだけでなく、文系の方、世間一般の方にも読んで頂きたい小説です。心に響く名著です。理系の事情を感情・感性に訴えて見事に表現する森氏にただ脱帽です。

 

「すぐれた考え方」入門

 

 研究に必要な、「考える力」を和田さん流に、かつ解り易く説いています。非常に読みやすく、実践的です。

 

思考の整理学

思考の整理学 (ちくま文庫)
クリエーター情報なし
筑摩書房

 

 バブル前の1980年代前半に書かれた本ですが、自分で考える力を失った若者たちが社会を担うとどうなるか、というのが皮肉にも著者の予測した通りになったような気がします。昨年この本を読み返してみて、日本の斜陽化とその予測を30年近く前にしていたこの本に改めて驚きました。

 

 一方この本、本の帯にも書いてある通り、東大・京大の生協・ブックストアで最近3年連続売り上げ第一位になっているほどの人気書で、「考えること」「頭を使うこと」に関するメッセージ・真髄は現在にも十分通じる所があり、著者の説く思考法を多くの若者が身につけるようになれば、日本もまだまだ世界に十分太刀打ち出来る、と希望を与えてくれる名著です。国だの経済だの社会だの、そんな難しい事・大きな事を考えなくても、一個人の心の中のレベルで大きな大変革をもたらしてくれる、ニーチェの言う「超人」のような若きリーダーを一人でも多く作り出してくれるような、そんな一冊です。

 

Posted by S. Yoshida on Monday 16 April, 2012