7.ハザードマップ と 火山の恩恵

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(ニュース)口永良部島(くちのえらぶじま)の噴火状況・現在の他の火山の状況

 

 先週の授業の翌日、5月29日(金)に 屋久島の西にある 口永良部島 が 突然(?)噴火しました。その翌日には 小笠原諸島の地下深い所で マグニチュード8.5の地震があり、関東もかなり揺れましたね。

 ちょうど先週の授業で地震と噴火の関係、「日本が千年に1度の変動期に突入した」可能性について学んだばかりですし、この小笠原には最近 海底の水蒸気爆発に始まった、新しい火山島(西之島新島)が出来たばかりで、現在も火山活動が続いています。

 毎週、授業の前後に 皆さんから 火山噴火に関する質問が(私の場合、プライベートでも メールなどでも)殺到してますので、皆さんが自分でも正しい情報収集できるよう、以下に 知っておくべき情報サイトと注意点をまとめておきます。

 特に 口永良部島に関しては いろんな情報が流れており、見解が統一されていない分があったり、誤った情報も(新聞・テレビ・ネットともに)見られますが、いろいろと吟味してみた所、以下の2つのサイトが割とまともで、常時アップデートされています。噴火や見解の推移が解るよう、過去の記事もまとめてあります。

 

1.朝日新聞・口永良部島 タイムライン

 

 山体膨張・マグマ水蒸気爆発など、この授業で学んだ用語が沢山登場します。


http://www.asahi.com/special/timeline/kuchinoerabujima/


 ただし、上のサイトでも、火山学者が登場しているニュース(記事・テレビ番組)でも 火砕流 と サージ(火砕サージ。ガスが多いために密度が小さく、希薄な火砕流とも呼べるが、挙動が違う)を一緒に 合わせて 火砕流と呼んでいるようです。小学校などで、火砕流とは何か、全くの初心者に「物事を単純化して説明する」分には良いのかもしれませんが、皆さんも火砕流とサージの挙動が違う事、それを軽視していたのが原因で 雲仙でも モンセラット島でも 多数の犠牲者が出てしまった事は記憶に新しいと思います。

 雲仙の1991年5月の噴火に関して、日本の政府・自治体の殆どの記録文書や、噴火から 24年 も 経った現在の ネットの公式文書でも、1991年の火砕流について、残念ながら サージという言葉には言及していませんし、先週学んだように、熱風という用語が使われている程度ですが、火砕流を安全な所から観察しようと、眼下の谷を遠くに見下ろせる高台(定点)に居た 44名全員 が 犠牲になったのは、火砕流本体に飲まれたからではなく、火砕流本体から斜め前方へ分離した熱雲サージが谷から溢れ、高台のあった山を飲み込むように駆け上ってきたためです。先週登場した雲仙の小学校を その4か月後(同年の9月)に焼いたのも谷から溢れた熱雲サージで、ここでも火砕流本体は谷を流れ下って行きました。第3回の授業で学んだように、NASAなど、海外の地球科学関連のサイトや学術論文の多くにはそう書かれていますし、鎌田先生の教科書にもそう記されています。ただ、日本の防災科学技術研究所のサイト(以下のリンク先)については、1991年の雲仙噴火の犠牲者は(火砕)サージによるものである、と明記してあります(被害に遭った自治体で現在でも混同が続いているのは 非常に残念な事です)。


http://dil.bosai.go.jp/workshop/02kouza_jirei/s18kasairyu/kasairyu.htm

 

 口永良部島の今回の噴火でも、この火砕流とサージの混同が見られます。上記の朝日のサイトにある、口永良部島の5月29日(金)の最初の爆発のビデオをよく観ると、噴煙が上がるのとほぼ同時に地を這うように高速で煙が谷沿いにも、谷を溢れた方向にも広がっています。(古典的な火砕流の原因である)噴煙柱の崩壊など起こっていないのが解りますし、ましてや溶岩ドームも最初からない。雲仙など一般に知られている火砕流の挙動ではなく、ビデオを何度見ても、有珠山の2000年の噴火の時のような (マグマ)水蒸気爆発の挙動ですし、それ以前の有珠山の噴火(明治~昭和)のように、(マグマ)水蒸気爆発に伴う サージ(正確には ベース・サージ)も口永良部島の今回の噴火で発生しているようです。しかも、この噴火で出来た火口は有珠山に見られるような竪穴をしています。

 火山灰を調べた火山学者(鹿児島大の火山学の先生など)の話によると、この爆発では、新しいマグマの破片(地下水と接触して爆発する際、マグマが細かく無数に引きちぎられ、急冷され、気泡に乏しいガラス質になったもの:授業でも、指定教科書でも有珠山の所で説明)が 少量含まれているので、今回の爆発は、マグマ水蒸気爆発なのですが、マグマの量(新しい火山灰)が少なく、水蒸気の爆発の割合が多いそうです。つまり、

「水がジワジワと熱せられ、地下での圧力が異常に高くなっていた所にマグマがちょこっとやって来て、(少量とはいえ)直接の接触により更に温度・圧力が上がって地盤に地上に達する亀裂が走り、圧力が解放されると(1気圧下で、水が沸騰し気化するとすると体積が液体の時の千倍以上になりますから)、水の瞬時の体積増加(気化)によってマグマ水蒸気爆発を起こし、その時に少量のマグマも巻き込んで 新鮮な火山灰も出来て、噴煙柱と同時にサージも発生した。」

というのが私の(映像や、他の情報を調べる限りの)解釈です。このマグマと(山体中の)地下水の接触から、マグマ水蒸気爆発、サージの発生までが、ほんのわずかの間に起こったのです。特に、噴煙柱を上げる マグマ水蒸気爆発と、サージ(現在もメディアで 火砕流 と呼ばれている物)の発生の間はほぼ同時か、(サージが横に大きく広がって)ビデオで「噴煙柱とはっきりと区別できる部分の登場からが 確かなサージ発生である。」と 遅めに解釈しても、低い噴煙柱を伴う最初の爆発発生から サージが映像で確認できるまで、僅か18秒しかありません。

 実際、予想された火砕流のコース(谷沿いと海岸部の谷が開けたところ)を遙かに超え、山の尾根をも越えて「火砕流(と言ってますが、サージでは?)」が広がっています。実際、気象庁などが口永良部島で予想していた火砕流コースがハザードマップ風にまとめられ、上記の朝日のサイトのアニメ風動画の最後に登場しますが、予想コースと実際の火砕流(?と言ってますが、多分サージも、それ以上に 十分含まれている)の到達範囲にかなりの差が生じて居ます。

ですから、今回の口永良部島の噴火は、「水蒸気爆発に 近い」マグマ水蒸気爆発と考えたほうが良いでしょう。それでも今回の噴火、上記の鹿児島大の先生の話によると、御嶽山の噴火(水蒸気爆発とベース・サージの発生:メディアも気象庁も、最初は水蒸気爆発という言葉しか使わず、噴火が おさまってしばらくして やっと、サージの発生を「火砕流の発生」として認めていますが・・・)の1割~4分の1程度の威力の爆発だったそうです。その御嶽山の噴火ですら、火山噴火の規模からすると 割と小規模なものです(爆発のあった昼食時に 火口付近に登山客など人が集まっていた事が多数の犠牲者を出した原因です)。

 この朝日のサイトには、5月29日(金)の口永良部島の噴火を受けた内閣閣議決定を受けて初めて 政府が「各自治体でのハザードマップ・避難体制の強化に取り組む。」と発表した事も書かれています。発表では「昨年9月の御嶽山の噴火を受けて」としているのですが、今の段階で、

「現在、【3.11後に監視強化されている、国内の】47火山の周辺述べ130市町村のうち、避難計画を策定したのは 20にとどまっている。」

のだそうです。ああ・・・

 

2.  ハザード・ナビ

 

 住民の声や 避難が上手く行った例などにとどまらず、行政のハザードマップ作成の遅れ、観測体制の拙さなどが、口永良部島だけでなく、他の都道府県・市町村などの自治体についても書いてあります。最近だと、箱根の様子や 桜島の様子が詳しく書いてありますし、内容的にしっかりした、信憑性の割と高い記事に リンクが 貼ってあります。

 

http://www.imart.co.jp/css-hzard-navi-7.14.html

 

 上記の朝日のサイトの説明の所で述べた「定義の単純化 や すり替え の 問題」(質問をすると、「それは○○の事ではない。」「私は△△という言葉を□□という意味で使っている。」などと、論点を それとは直接関係のない別の論点 に置き換える 言い逃れ)の可能性 は このハザード・ナビ の サイトでも 引用記事の中などに 残ってしまう (記事を書いた人やインタビューを受けた政府機関・学者などが、定義の違いを持ち出して言い逃れされそうな ゆるい用語で書かれている物が多い)のですが、それでも 口永良部島を含めた日本中の火山の最近の様子、地震・津波対策について タイムライン式にアップデートしてあるので、便利です。先週、5月29日(金)からは、この口永良部島の記事が続いています。

 この ハザード・ナビ の サイトによると、口永良部島は昨年8月も小規模の噴火をし、気象庁が傾斜計・GPS・空振計・屋久島からの高感度監視カメラなどを設置し、今年3月からは機動観測班2名が配属されてたのですが、昨年8月の小噴火の際に火口付近に設置されていた地震計が3つとも壊れてしまいました(島内に設置されていた地震計は合計6個。そのうち3つが今回の噴火の火口付近にあり、3つとも壊れたままでした)。しかし、「入山規制が出ていて 入れないから。」という理由で、これらの地震計は壊れたままで修理されていなかったのだったそうです。ああ・・・

 

 まずは皆さんの多くがレポート課題の中に書いていた「ハザードマップ」(防災マップ)について見てみましょう。


 ハザードマップが失敗し、多数の犠牲者が出た例はモントセラート島の噴火の例(DVD鑑賞と配布資料)で学びましたね。この失敗例の詳細は 第4回の授業の Web Page の中頃に図とともに短くまとめてあります。

 それでは、ハザードマップで予測した通りの噴火が起き、住民の避難がスムーズに行われ、犠牲者の出なかった模範例を見てみましょう。フィリピンの首都マニラの近くにあるピナツボ山の大噴火です。火山灰と異常気象についての講義でも取り上げましたね。

 

 このピナツボ火山、世界中に異常気象を起こしただけでなく、火砕流を多量に発生した事でもしられています。例えば、下の写真はその火砕流の堆積物が崩れた崖。たった3時間で厚さ(高さ)210mもの火山灰が火砕流によって堆積したのです。

 

 上のスライドの左の写真は1991年のピナツボの噴火で溜まった火砕流堆積物の露頭断面。火口付近ですが、わずか3時間で なんと 厚さ 210 m 近くの火砕流堆積物(軽石・火山灰)が積もりました。学校・病院など、普通の(数階建ての)鉄筋コンクリート製の建物の3階が約10mに相当するので、210 m というのは、ビル63階に相当します。千葉県内で一番高い建物が 海浜幕張にある「アパホテル & リゾート 東京ベイ幕張 内にある セントラル・タワー」で、180 m の高さですからその 1.2 倍弱に相当する高さが 火砕流によって、わずか 3時間で埋もれてしまったのです。

  下のスライドのうち、左は噴火の前の前にハザードマップで予想された火砕流(オレンジ)とラハール(土石流:灰色)の分布です。右は噴火後に実際に火砕流(オレンジ)とラハール(灰色)で覆われた地域です。ほぼ予想通りの被害範囲となり、アメリカのクラーク空軍基地は火砕流に埋もれてしまいました。予測も上手く行き、住民の避難もスムーズに行われたのは、空軍の力によるものですが、その空軍基地は壊滅的な被害を受け、使用不可能になってしまいました。

 

↓ 日本のラハール(火山性の土石流、火山泥流)の破壊力が実感できる、必見のビデオです!!!

  ビデオ右下の「Youtube」をクリックして別のウインドウを開き、

  全画面に拡大し、音を聴きながら観る事をお勧めします。

  ラハールを、土石流を侮(あなど)ってはいけません。

  泥水だけではなく、巨礫がウジャウジャト運ばれてくるのですから、

  流れに飲み込まれたら ひとたまりもありません。

 

 上のビデオの 3:56 から、2000年の有珠山噴火に伴う熱泥流と避難後のガランとした町の様子が映っています。熱泥流の規模としてはごく小規模の物で、特に最初の熱泥流は温泉水に近いですが、それでも高温で威力があり、危険です。だんだん泥質になって行きます。

 

 では次に日本のハザードマップの成功例を見てみましょう。私が思うに、一番の模範例は、有珠山で、2000年の噴火の際には、予知に成功しただけでなく、ハザードマップを渡されていた住人の避難がスムーズに行われました。

 

 噴火後、住民は既存のハザードマップに甘んじることなく、更にデータを加えてアップデートしたもの(2002年版)を地域内の各家庭、温泉宿、公共施設などに配っています(以下のスライド)。

 

 以下に拡大したものをお見せします。徹底した火山噴火への対応と、火山噴火のプロ並の理解(しかも解りやすい用語と過去の噴火の証拠写真で説得力を深めています)、脱帽モンです。私はこんなに凄いハザードマップを(日本だけでなく、海外も含めて)見たことはありません。

 

 こちらが上のハザードマップ(ポスター)の裏の様子。サージと火砕流の到達範囲に違いがある事や(この授業でも教えたことを、住民が自分達で勉強しているのです!)、地域住民の一人ひとりの声が生かされている事などに注目して下さい。

 

 ダウンロードはこちら:

ハザードマップ(ポスター)表

http://www.toya-usu-geopark.org/files/anzen/hazard_map_front.pdf

 

ハザードマップ(ポスター)裏

http://www.toya-usu-geopark.org/files/anzen/hazard_map_back.pdf

 

 また、以下のような本やDVD、ビデオも住民に配られています。

  

 このように、ハザードマップを含めた防災(減災)計画・実行というのは、住民・行政・科学者・メディアの4者の協力が必須なのです。こうする事によって、想定の範囲も増え、科学者の見逃している事(可能性)を住民が指摘するなど、ハザードマップ・防災計画の質がだんだん洗練されて行くのです。

 以下のリンク先から 「有珠山 地域 防災 ガイドブック」(紙印刷の物をスキャンして作ったPDF版)がダウンロードできます。住民が使った「有珠山の噴火」についての入門書です。画像が古いですが、こちらも良く出来て居ますので、必見です。どの自治体も、学校・会社も、このレベルの物を作って教育すべきです。

http://www.city.date.hokkaido.jp/hotnews/files/00000700/00000764/20130225144739.pdf


 有珠山のハザードマップに対し、火砕流や地震による(風化)山体崩壊・岩なだれ などの情報が載っていなかったり、危険度に関する表現が曖昧なのが、富士山のハザードマップです。いろんなバージョンがあり、現在も試行錯誤中らしいですが、Wikipediaに載っているものは、(有珠山のハザードマップを見た後で)節穴の多さに、ガッカリしてしまいます。直接ダウンロードされる方は、こちら:

 

http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/1/10/Hazard_Map_of_Mt.Fuji_common_l.jpg



 これら富士山のハザードマップ(最新版も含めて)に使われた情報は、元をたどっていくと、どうも内閣府にある「富士山ハザードマップ検討委員会報告書・富士山火山防災協議会」の長い報告書のデータや解釈に基づいているようです。ネットから閲覧・ダウンロード出来ます。


 例えばハザードマップ中では曖昧な火砕流の表現なのですが、上記の報告書をみると、「火砕サージ」(あるいは単にサージ)について、「検討している」と 一通り説明が書いてあります。しかし、ふたを開けてみると、

●「火砕サージは火砕流の到達範囲より1km先までしか届かない」

という前提で書いてあります。富士の斜面を下る火砕流も、そこから分離する(更に高速の)火砕流も、下の図(報告書から抜粋)をみると、富士の急斜面のど真ん中で 「都合よく」(?)止まってくれるんですって。一体何が・・・?


 その根拠として挙げているのが、以下のデータです(報告書より抜粋)。

 

 どうやってこれら2つの火山(雲仙とフィリピンの マヨン山)を選んだのか、不思議ですが、まず、

● 雲仙の1991年の火砕流の場合、谷の中を流れていた火砕流から斜め前方(上方)に分離した熱雲サージが、重力に逆らい、斜面を登るようにして山の高台の観測点にいた学者・ジャーナリストら44名を襲った。

●その4か月後、谷のさらに下流の高台の平地にある小学校(は、火砕流から分離した熱雲サージに襲われたが、この時も谷を下っていた火砕流から斜め前方に分離した熱雲サージは、重力に逆らい、斜面を登るようにして高台の平地に溢れ、小学校を襲った(谷がカーブになっている所の先に小学校があったので、火砕流の本体はカーブを曲がり切っても、軽くて浮力に富むサージはカーブを曲がり切れずに溢れたのではないかと思います)。また、カーブがなくても、モンセラット島など、多量の火砕流が来ると、谷からサージが溢れ、この時は火砕流本体が流れている谷の淵から横に2キロも離れた丘陵地帯をサージが襲って16名の犠牲者を出し、さらには繰り返すサージにより厚く溜まった(まだ熱い)火山灰が、二次火砕流として、島の反対を谷を下りながら襲います。

 ですから、重力に対抗して起こった火砕サージ(上図の雲仙の例)と、富士の斜面のように、重力が火砕流だけでなく、(火砕)サージの広がりを助長しやすい場所を単に比較すべきではないのです。富士独自の地形などの影響もありますし(後述の大沢崩れなど、谷地形を殆ど考慮していない部分もあれば、富士斜面の東側など、谷の中の方が火砕流到達距離が谷の外よりも短くなっていたりします。どういう事?)。

そして、ここが一番大事なのですが、

●使われているデータ(他の火山の噴火例)が2火山のみ、圧倒的に少ないのです。先述の有珠山のハザードマップをみると、過去の事例に基づいて算出された 火砕流の到達距離と(そこから分離した物を含めた)サージの到達距離の差は最大で5 km もあります。サージが火口から10 km離れた所まで到達する、というのは地層などを調べていると決して珍しい事ではなく、セントへレンズ山の1980年の噴火の例など、サージが 40 km くらい 先 まで到達した噴火の例を富士と比較するのは適切ではないかもしれませんが(1883年、インドネシアの小島、クラカトア火山の噴火ではサージが 幅 48km もの海を越えて、スマトラ島の斜面を水平距離で 3.2 kmも駆け上り、合計 51.2 ㎞ も離れた村をサージの熱風と火山灰で焼き払い、このサージだけで2千人以上の犠牲者を出しました。ですから、セントへレンズより大きなサージも歴史的には何度も起こっています)、この報告書の中に引用されている例が あたかも サージの到達距離が小さい噴火の例 を 選りすぐったかのようにも解釈できます。多くの引用があれば、もっと現実的な到達距離が判定できるし、サージの挙動についてまだ良く分かっていなくても(火砕流との区別がまだ つかなかった、フィリピン の タール火山の20世紀に入ってからの 2度の大きな 水蒸気爆発・サージの研究成果が出る前であっても)多くの例さえあれば、より客観的・科学的な推定が出来るのです。


 富士山の報告書ではなく、ハザードマップ本体(一般公開版)の話に戻ると、以下の最新バージョンが最近出回っています(神奈川県の物)。一つ前のバージョン(先述のWikipediaの物)と比較しても、予測地図自体には変化がありません。警戒レベルについての説明と普段の防災・緊急時の対応についての説明が加わって、1ページだったのが 2ページになっただけです。


 こちらが拡大図。火砕流とサージは一つにまとめて表現してあります。到達範囲は先述の報告書内の地図と同じ。明らかに上記の報告書からの引用です。


 溶岩流の他、数千年前の過去に起こった岩屑なだれ(岩屑流・岩なだれ)については以下のスライドのように地図にして示してあるのですが、現行ハザードマップ(上のスライド)には、岩なだれについては記載されていません。指定教科書の著者、鎌田先生は富士山の風化した部分が巨大地震で岩なだれを起こす可能性について、長年心配しているのですが。


 実際、富士山はかなりの風化を受けていて、ひびの入ったような谷地形も持っています。例えば、以下の大沢崩れが有名です。


 土石流に関しては、以前からこの谷沿いに発生しており、国土交通省の富士砂防事務所 が 静岡大学防災総合センターと連携して監視しています(以下のスライド)。

 

 静岡県富士宮市の防災マップ(ハザードマップ)も、富士の噴火に対しては神奈川県のハザードマップと同じ予測地図を使っています。ハザードマップを作成するには 多くの手間と費用がかかる、人手不足だからといって、政府や(隣の神奈川県など、他所の自治体の)ハザードマップを そのまま使っているのは考えもんです。上の自治体もアップデートしなくては行けないし、政府や他の自治体の把握していないローカルな事情を反映すべきです。3.⒒の東日本大震災と巨大津波の悲劇と教訓の後は、沿岸沿いを中心に、住民自らが集まって、地方自治体と共に こういったローカルな情報を反映したハザードマップを作ったり避難所を見直す所が増えましたが、火山災害に関しては まだまだです。「火山災害の正しい知識が まだまだ浸透していない」 というのも大きな理由だと思います。

http://www.city.fujinomiya.shizuoka.jp/citizen/llti2b0000001be1.html


 それでは次に、火山の恩恵について考えて見ましょう。断片的ですが、これまでも授業中に恩恵については触れて居ますし、火山国日本に住む我々、火山の恩恵については言い尽くせないほどあります。しかも昨今の富士ブームもあり、火山についての脅威が忘れられ、世界遺産登録・観光・温泉グルメなどばかりメディアでも連日のように取り上げられている感があります。

 

 そこで気になって、「火山」と「恩恵」でGoogleで検索してみたところ、火山についてのWikipediaのページに(詳細は書いてありませんでしたが)以下の項目が「火山の恩恵」として挙げられていました。

 

 火山自体にも成層火山、カルデラ、楯状火山、鐘状火山(溶岩ドーム)など、いろんな形態があるため(これらについては高校の地理などで学びますね:皆さんは履修していないと思いますが、地学概論Aでも学びます)、それに伴う地形も変わってくるのですが、恩恵としてまず最初に考えなくてはならないのは、我々の住んでいる土地の多くがが火山によってもたらされているという事です。これは、プレートの沈み込み帯では特に重要で、日本もその一つ。例えば、上のスライドを観ると、日本の高山の大半が火山であることがわかります(立山など、火山とは記されていませんが、これらも火山が雨風や氷河によって侵食されて出来た峰々から成り、実際温泉も山頂付近にも山腹にも沸いてますし、火山ガスも発生しています)。

 

 欧州のアルプスなど、現在は地表に活火山のないところでも第四紀の中頃(数10万年前)まで火山活動のあったところが多く、今でも温泉など湧いています。ハンガリー、チェコ、ドイツの温泉が有名ですが、スイスの温泉も壮大な景観とともに人気があります。

 

 農業を行うにあたって火山地域のもつ課題は、水の確保です。溶岩など水を通しやすい岩や湧き水がある一方、火山灰の厚い地層は水はけが良すぎて稲作などに適さないやせた場合が多いです。平野部の土地に比べると、火山周辺の土地は様々なミネラルを豊富に含むという利点がある一方、水はけが良すぎて有機物のような栄養分が流されてしまい、土地がやせてしまう、という短所に悩まされてきました。

 

 こういった火山灰層の多様性と最適な栽培種(野菜・果物など)を見極めるのは試行錯誤が必要なため、最適品種が見つかって大量に生産できるようになるまでに時間がかかり、大変だという事が歴史時代から知られていたのですが、最近になり、火山の痩せた土地でも、堆肥を十分に与えると土地が一転して生産力のある優秀な畑となる、という事例が増えてきました。

http://www.foodwatch.jp/primary_inds/sekisoil/12757

 

 それでも、昔から火山周辺の起伏に富んだ(丘陵地帯のような)土地で行われていた物があります。それが牛の放牧。ミネラルに富んだ草を牛さんたちが食べて、良いミルクを出して酪農製品を作ったり、また、肉牛としても飼育されます。以下のスライドは米国ワイオミング州の牧場の様子(私もこのあたりに2年ほど住んでいました)。(注:最近のアメリカの牛は火山とは離れたところで コーン食べて 屋内で飼育される事が多く、水不足の深刻な原因になっています。地学概論Aの最終回で学びます。火山の周りの草を食べて育った牛は高級肉です。)

 

 日本も阿蘇や那須高原など、火山周辺の丘陵地帯を牧草地に変えて牧牛を中心とした畜産業を行っている地域が多いです。同じ火山国のニュージーランドもこうやってチーズを作って輸出していますが、牛よりも羊が有名ですね。

 

 次に同じ火山国のイタリアの例を見てみましょう。火山が少ないはずの西~北ヨーロッパに対し、イタリアやギリシャなど、地中海の一部の国に火山があるのは、これらの国々がプレートの衝突帯・沈み込み帯にあるからです。アフリカ大陸のプレートがヨーロッパ(ユーラシア・プレート)の下にもぐりこ込もうとして、イタリアなどに火山が出来たり、アルプスのような大山脈が出来ているのです。

 

 まず皆様に見て頂きたいのが、こちらのベスビオス山。西暦97年の噴火でポンペイの町を(低温)火砕流で埋め尽くした事で有名ですね(先週の授業にも登場しました)。下の写真はナポリ湾を挟んで、ベスビオス山を見渡した様子です。手前の建物の下にある崖は、火砕流のもたらした多量の火山灰が固まって出来た岩です。

 

 その火山灰(殆ど火砕流域原、一部降下性の火山灰も含む)の厚い層に覆われていたポンペイの町(下の写真)、発掘が開始されたのは18世紀の事です。

 

 18世紀に発掘が始まる前、ポンペイがある場所は広大なぶどう畑でした。ぶどう畑のあちこちをローマ史・考古学の専門家を含めた調査隊が掘り起こしていたら、ついにポンペイの町の遺跡が見つかったわけです。火砕流のもたらした火山灰が風化すると、ワイン用のぶどう作りに適した肥沃な土地へと変化するのです。

 

 ポンペイ自体、もともとワイン作りが盛んな所です(さらに古い火砕流の上に建てられた街ですし)。遺跡からワインを運ぶための壺が多数出土されていることから、西暦79年の火山噴火まではぶどうの産地であり、主な産業はワイン醸造だったことが解っています。

 

 また、ポンペイが火砕流に埋もれた後の土地に育ったワイン用のブドウ畑ですが、今でもポンペイ近郊にはワイン畑があります(下の写真。背後にあるのはベスビオス山です)。

 

 イタリアにはベスビオス山周辺よりも有名なワインの名産地があちこちにあります。その中でも有名、しかも火山の恩恵をモロに受けているのが、イタリア南部・シチリア島の有名な活火山、エトナ山周辺のブドウ畑地帯です。

 

 このエトナ山、ヨーロッパ最大の活火山ですが、世界的にみても最も活動的な火山の一つで、毎年のように噴火しています(火山活動が常にオンの状態です) 。

 さて、このエトナ山、約2,500年前に大噴火を起こし、大量の火砕流で周辺を埋め尽くしたのですが、この火砕流によって運ばれてきた火山灰が風化し、ワイン作りに最適な土壌を作りました。古代ローマの頃からここでワインが作られていますが、今でも高級ワインの産地として知られています(下の写真)。


 あと、火山と農業といえば、こちら、鹿児島のシラス台地です。中学の社会科の授業にも登場する、火山灰で出来た広大な土地です。

 

 このシラス台地、水はけが良すぎるため 水分・有機物の保留力が低く、稲作には向いていないですが、江戸時代からの試行錯誤の上、そのような土壌でも育つサツマイモ(中南米原産:17世紀の初めに琉球・九州に伝わったものを早い時期に採用)や桜島大根を代表とする大根、大豆、アブラナなどが主産品となっています。また鹿児島ではサツマイモを食べさせる事により独特な風味を持つ黒豚(くろぶた)の養豚も盛んで、ヨーロッパなど、海外でも高級グルメ肉として知られるようになりました(黒豚のエサを鹿児島から輸入して養豚をするヨーロッパのグルメ用養豚場もあるほどです)。肉牛の生産も盛んで、鹿児島の肉牛生産量は北海道に次いで全国2位(2008年のデータ)です。


 鹿児島と言えば焼酎。特に本格焼酎は健康に良く、

(1)分解されやすいので、肝臓に優しく、酔いから覚めるまでの時間が短い

(2)このため 睡眠を阻害しにくく、二日酔いになりにくい

(3)脳梗塞などの心臓・血管系の病気の予防効果があるだけでなく、その原因である血栓(既にできてしまった物)を溶かす酵素を含む(本格焼酎と泡盛だけに含まれる)。

などの効果があり、海外からも近年注目されています

 

 余談ですが、シラスはコンクリートの原材料としても使用されています。

 

 同様に、世界一の火山国である インドネシア の火山の土地も、熱帯雨林気候の下でミネラルに富んだ土壌へと風化し、コーヒーの他、様々なスパイス、ハーブなどを産しています。日本の野菜の多くは東南アジアから16世紀(朱印船貿易)~18世紀に入ってきたもので、カボチャはカンボジア(国名)が語源です。ジャガイモ も「じゃがたらいも」(ジャワ島の イモ)が語源です。

 

 インドのデカン高原なども玄武岩とそれが風化して出来た土地で、ここも お茶、スパイスのほか、インドの伝統医療(アユール・ヴェーダ)のハーブ・薬草など、植物の多様性・栄養価に富む土地なのです。

 

 それらのハーブ・スパイスの例をいくつか挙げると、香辛料の ナツメグ(下の写真・左上)、カシューナッツ(下の写真・右上:ちなみに、カシューナッツとして食べるのは、写真中で黒く見える部分です。色鮮やかな赤・黄の果肉はフルーツとして原産国を中心に消費されています)、アシュワガンダ(下の写真・左下:滋養強壮剤・美容効果で、最近日本でも人気があるインドの伝統的なハーブで、中国の漢方でも使われています)などがあります。日本でいうと、伊豆諸島の火山島に生息する明日葉が一番近いと思います(下の写真・右下)。明日葉は日本で手に入る野菜の中で、最もビタミンの(量・種類共に)豊富な野菜で、伊豆大島から八丈島まで、港のフェリーターミナルや空港などでも売られています。ちなみに、野菜の中でミネラルが一番豊富なのは ケール(キャベツのご先祖:青汁の原料として有名)で、日本でケール栽培が盛んな所は、群馬・大分など、火山灰の風化層の発達した所が多いです。ビタミン・ミネラルの両方で評価すると、明日葉・ケールともに1・2を争いますが、クワの葉(こちらも群馬で栽培)も青汁の原料の中では一番栄養価が高いのだそうです(安価で栄養の高い大麦若葉と混ぜた青汁として売られている事が多いですが)。

 

 まずはこちらの ミネラル・ウオーター(Mineral Water) をご覧ください。コンビニでもお目にかかる、皆様おなじみのフランスの天然水、Volvicですね。

 

 実はこのVolvic(ヴォルヴィック)という商品名、この水の湧水地(鉱泉)のあるフランス中部~南東部の地方の名前なのです(下の地図)。フランスの胃袋(Gastronomic Capital:美食家の都)と言われるリオンの直ぐ近くなのですが、美味しい食べ物と美味しい水の町が直ぐそばにあるというも、多分深い関係があるのだと思います。

 

 名前の Volvic って Volcano とスペルが似ていますよね。そこでVolvicのラベル(下の写真)をよく見て下さい。実は緑に覆われた小さな火山(今は活動していない、古い火山)なのです。かわいい火山の形をしていますが、これは専門的には、スコリア丘という、黒っぽい軽石が小さな火口の周りに積もって出来たミニ火山で、日本にも阿蘇カルデラ中に米塚という似たスコリア丘があり、同じような形をしています。

 上のラベルの火山ですが、実在の火山をそのまま描写したものです(下の写真の手前の火山。Volvic地方にはスコリア丘の火山が幾つもありますが、手前の物が一番形が綺麗なのでラベルとして採用されたのでしょう)。

 

 スコリア(玄武岩質の、黒っぽい軽石)は気泡が多く、水を通しやすいですから、これらのスコリア丘の麓では綺麗な湧水が見られます(下の写真)。

 

 火山の作った自然のろ過機を雨水が通り、ミネラルに富み、綺麗な美味しい水が出来たというわけです。

 

 Volvicの日本代理店であるキリン・ヴィバレッジのサイトには、この天然濾過の原理と美味しい水の関係について詳しく説明してあります。

 

http://www.beverage.co.jp/volvic/about/six_layer.html 

 

  これと同じように、日本の火山の周りでも美味しい水が湧き出します。日本の場合、スコリア丘よりも、大型の火山の山麓で湧き出したものが多いです。大きな火山は雲をかぶって山頂は雨に見舞われる事が多いですが、その水が山中の溶岩(気泡)や割れ目などを通り、濾過されて湧き出してくるのです。日本だと、特に富士の名水が有名ですね。

 

 皆さんも旅行雑誌やトラベルガイド本などでご覧になることも多いと思いますが、富士周辺の水は良質なため、そば屋だけでなく高級料理店・料亭があったり、酒造どころかビールの醸造所まであります。本場のドイツビールを富士の水を利用して作っている所もあり、その中でもバイエルン・マイスタービールは古くからの老舗で、ドイツ大使館にビールを納めているほどです。富士観光の帰りに立ち寄るのもお勧めですよ。近くには温泉もありますし。

 

http://www.bmbier.com/html/bier.html

 

 次に温泉についてみてみましょう。温泉グルメや名湯の旅については毎日テレビで見ない日はない、という位頻繁に放送されていますので、皆様もこの恩恵についてはよくご存知と思います。仕事柄、世界各地のいろんな温泉に行きましたが、私の 「関東で一番のおススメの温泉」は 奥日光の湯元温泉 です。日光市内に世界各国からバックパッカーの集まる安宿(ゲストハウス)がいくつかあるので、そこを拠点とし、バス乗り放題の2~3日有効のフリーパスを買って奥日光(湯元温泉)まで行く事をお勧めします。国内外からの観光客が多いため、旅館・ホテルは高い割には食事が酷かったり(冷凍・レトルトを使っていたり)する事が多く、高級な宿に泊まらない限りは、リスクが高いです(という忠告を行きつけの床屋のオジサンから受けました)。それなら安宿を、と探して泊まったのが「日光 巣み家」という古い民家を改造したゲストハウス。近くには美味しい居酒屋もあり、他の旅行客たちとも気さくに交流でき(翌日帰りの列車が一緒になって楽しく会話したりと)大正解でした(上の写真:大勢で写っているのは 『日光 巣み家』の談話室。初対面の旅行者たちとの語らいの場、夕方からは そのまま食事【自炊可】や 飲み会の場になります)。

 日光市内だろうと、中禅寺湖だろうと、温泉の源泉は奥日光にある湯元なのです。日帰り温泉もあり、午後の早い時間だと混んでいません。私がキックボクシングの仲間2人(アメリカ人56歳、スペイン人66歳:下の写真)と一昨年10月の紅葉の季節に湯元のホテルの日帰り入浴を利用した時も、土曜日だというのに 12時半~3時だったせいか、我々以外には誰もおらず、硫黄の香る乳白色の温泉が露天風呂も広い内湯も貸し切り状態でした。翌日も近くの温泉に入ったのですが、午後の入浴後、夕食を取る頃には、スペイン人のオジサンは別人のように若返っていました(さらに下の写真)。


 ご飯も美味しかったです。日光市内も美味しいですが、奥日光(湯元)の 「湯ノ湖」の 湖畔にあるレストハウスでの食事は麺類・ご飯ものなどシンプルですが、安くておいしいです。地元のキノコ(ちたけ)を使った蕎麦「ちたけそば」は絶品で、友人2人は、日光から帰って来て数か月たっても、よくキノコ蕎麦(ちたけそば)の事を思い出しては話していました)。

 それでは、海外の温泉の例を見てみましょう。私のお勧めはこちら、アメリカ・コロラド州にあるGlenwood Springsです。

 

 私は千葉大に赴任する前、海外(イギリス・アメリカ・カナダ)に計15年住んで居たのですが、海外に住んでいる日本人が一番恋しくなるのが温泉だと言われています。広いお風呂・浴槽の場合、プールでなんとか我慢できるのですが、温泉のあの湯気、暖かさ、肌に優しいお湯、ほのかな香りの融合した温泉は何物にも代えがたい至福の時を与えてくれます。

 

 そんな中、私はロッキー山脈の中にあるGlenwood Springsの近くに行く機会が多く、近くを通ると、必ず立ち寄り、プール型の湯船(上のスライド)に長時間使っていました。プールは日本よりぬるめの感じですが、周辺のホテルだと個室で温泉から引いたお湯を入れた湯船に浸かったり、温泉の湯・泥・湯の花を使ったエステやマッサージの施設も多いです。また、このあたりの景観は日本の山中に居るようで、夏は緑の木々の間を清流が流れ、玄武岩の崖が谷を作り、冬は雪で覆われます(直ぐ近く、車で一時間の所に有名なスキーリゾートのアスペンAlpenがあります)。このGlenwood Springsはで全米一の温泉施設なので、お勧めです(デンバーから車で2時間位です)。


 あと産湯量でいうと、全米一どころか世界一なのが、この授業でも何度か登場した、イエローストーン国立公園です。下の写真は、湧き出る湯から石灰分が沈殿し、皿状の段々畑のような構造を食ったもの。 

 

 似たような段々畑状のプールに似た温泉は、トルコにもあります。パムッカレという有名な観光地です。


 段々畑上の小さな(自然の)温泉プールでは狭く感じる方は、周辺の温泉に行くと良いでしょう(下の写真)。

 

 下の写真はアイスランドにあるブルーラグーンという有名な温泉。白濁した豊富なお湯は皮膚病などへの効能が高いため、ヨーロッパなどから多くの人々が湯治に訪れます。背後に見えるのは地熱発電所です。

 

 実はウキペディアには「黒曜石のような鉱物資源」をもたらすと書いてあったのですが、黒曜石(火山ガラス)は古代どころか石器時代から矢じりとして使われている、割ると鋭くなる石ですかし(地学概論Aの授業では 紹介しましたが)、ここでは省きます(ちなみに、黒曜石は その切れ味のよさから、現在でも医療用のメスとして使われています)。

 

 火山のもたらす鉱物資源として、金属の鉱石を考えた場合、その殆どは地下の火山活動によって出来たものです。中でも金・銀・銅はマグマが地下で冷え固まったり、熱水から岩の隙間・割れ目などに沈殿したりして濃集します。この濃集部を鉱床と呼びます。

 

 このため、火山の多い地域では、金・銀・銅の鉱床が発達します(量的には同が圧倒的に多く、地下で固まったマグマに付随する物が多いです)。そういう地域の代表例が南米のチリです。ここもプレートの沈み込み帯に沿って南北に伸びた国ですが、インカ文明の頃は、金などの鉱物資源がふんだんに使われた芸術品が多く作られており、征服者のスペインを魅了してしまったのです。そうやって、アステカ文明(現メキシコ)など、中南米の多くの国々(火山が多い国々)がスペイン・ポルトガルをはじめとするヨーロッパの国々に征服され植民地化してしまいます。

 

 太平洋西部のプレート沈み込み帯の火山国である日本も昔から金を(少量ながら)生産していました。美術品や寺の装飾具などに使われていましたが、イタリアから中国(元)まで旅したマルコポーロの「東方見聞録」のなかで、「(机も椅子も金で出来ている)黄金の国、ジパング」とかなり誇張されて日本の事が紹介されたため、ヨーロッパでは初めて聞く国、日本に対する関心が高くなって行きました。その後、ヨーロッパ人が種子島に漂着したり、宣教師がやってきたりで、日本は金ピカの国ではないことは分かっていくのですが、戦国時代(ちょうどポルトガルの宣教師たちが日本各地で盛んに布教活動をしていた頃)になると、各領主が軍資金を調達するために、自分の領土内の金・銀・銅などの鉱山(鉱床)の調査を盛んに行うようになり、日本全体の金・銀・銅の分布が解っただけでなく、生産量も増えてきました。

 

 そうやって関ヶ原の戦いが終わり、江戸幕府が始まった頃、スペイン・メキシコの使節団が徳川家康と面会し、日本各地の金山・銀山の開発を鉱山技師を派遣するなどして手伝う代わりに、収益の大半をスペインに渡すように申し出るのですが、当時家康に仕えていたウイリアム・アダムス(三浦按針)から「スペインは日本を植民地化しようとしている」という助言などもあり、家康はスペインを追い帰し、遂には長い鎖国の時代に入る事になります。後でスペイン・メキシコの歴史的公文書が公開されて分かった事なのですが、実際、スペインはこの時、日本の金銀のありかを探して、征服しようと考えていたそうです(在日メキシコ大使館のホームページにも、それが国交の始まった400年前の出来事だったと書いてありました。ただ、宣教師たちの情報から、日本は何万もの銃を持っており、それを使った戦国時代が終わったばかりなので、わざわざ日本まで行って戦っても勝ち目はない、と判断したようです)。

 

 スペインを追い帰した家康ですが、金・銀・銅山の開発を急速に進め、ヨーロッパに頼らない日本式の鉱山技術(特に落盤防止の掘削技術と排水技術)が飛躍的に更新した事もあり、17世紀には佐渡の金山、足尾銅山など、あちこちで鉱山が開かれ、金銀銅の醸造も盛んになります。そうやって江戸時代は通貨として大判・小判が使われるという、世界でも例を観ない金銀通貨制度の社会になったのです。金座銀座などの言葉や地域名は今でも残ってますが、それは当時の名残なのです。また、この頃の日本の銅の生産量はイギリスを抜いて世界一でした。

 

 ただ、幕府は外貨を稼ぐために、金銀銅の多くを輸出してしまいます。鎖国中の日本はオランダと清(中国)としか貿易をしていませんでしたが、ヨーロッパの通貨に対し、円が非常に安かったのと、金の価値がヨーロッパ人が渇望するほど当時の日本では高くなかったため、不当な値段で取引が行われ、金銀銅がどんどんヨーロッパを中心に海外に流出していったのです。金銀(特に金)はもともと世界的にも埋蔵量が少ないですから、早く枯渇してしまいますが、銅に関しては明治時代になっても日本の主要な輸出品目でした。

 

 そんなわけで、黄金伝説の夢を自ら見る事のなかった日本ですが、今でもわずかながらも金の生産が日本各地で行われています。中でも鹿児島県には高品質の金山(金鉱床)があり、生産量も比較的多いです。特に世界的に知られているのは、菱刈鉱山で、金鉱石中の金の含有量・濃度(品位)がつい最近までずっと世界一でした。残念ながら埋蔵量自体では大きな金鉱床は残っていません(少なくとも、日本の本土では見つかっていません)。

 

 この菱刈鉱山、金鉱石1トン中に50~290グラムもの金を含みます(50~290 ppm)。世界的にみると、(金の価格変動にもよりますが)1トンあたり5~6グラムの金を含めば(5~6 ppm)採算に合うし、世界平均の金の含有量・濃度もこのあたりです。つまり、菱刈の金鉱石は世界平均の10倍から58倍も高いのです。このため、純度の高い金を必要とする精密機械の部品などとしての高級な用途に使われています。

 

 菱刈の金の含有量が高いのは、この金鉱床が「熱水鉱床」という地下の熱水(温泉水)の流れによって生成されるためです。マグマが地下から上昇すると、ニッケルやクロムといった重い金属が花崗岩などと一緒に冷えて先に地下で固まるのですが、金はまだ解けたマグマの中に含まれています。更にマグマが上昇すると、銅などが深成岩と一緒に冷えて(少し浅い所で)固まりますが、金は温度の下がったマグマの中に溶けたままなので、マグマが更に上昇し、地表近くで冷えた時や、さらに地下の熱水の中に他の金属と一緒に溶け出し、その熱水が地下を上昇して来る時に、岩の割れ目や隙間などに金が微量ですが少しずつくっ付きます(下のスライド)。そうやって熱水が時間をかけて金を濃集させたのが菱刈のような熱水鉱床で、菱刈のように、熱水の循環が地表近くで起こっている場合を特に浅熱水鉱床と呼びます。

 

 したはその金鉱石の写真。重さ2トンですから、この中に菱刈だと100グラム~580グラムもの金を含んでいるわけです(世界水準の数十倍)ですが、パッと見てとても金とは思えませんね。ちょっと色の薄い普通の岩に見えてしまいます。

 

 ところが金などの金属が農集した「亀裂の充填物」のような部分(脈・Veinと言います)を顕微鏡などで拡大してみると、金銀銅などの金属が濃集しているのが解ります。下の写真でCpと書いてあるのが銅、Elと書いてあるのがエレクトラ(金と銀の混ざったもの)です。

  

 金鉱石からこのような金属部分を取り出し、さらに金銀銅などに分離し、精製すると、我々がおなじみ(?)の金になるわけです(上の写真)。

 さて、それでは次に火山の作る「美しい風景」について観てみましょう。火山が「観光」や「崇拝」の対象たる所以(ゆえん)です。

 

 そういう話になると、どうしても避けて通れないのが、一昨年 世界遺産に登録された富士山ですね。

 

 ここ数年の富士山ブーム、ちょっと異常では?と思うほどの盛り上がりですが、日本国内の世界遺産というのは富士山だけじゃないんですよ。下の図のように、火山関連が多いですが(昨年世界遺産登録された 富岡製糸場が抜けておりますが)。

 

 ちなみに、先述の「ポンペイの遺跡」も世界遺産です。

 

 あと、先週この授業でも学んだサントリーニ島も、ギリシャ・地中海を代表する超人気の観光名所です。

 

 鎌田先生のもう一つの本「火山噴火~減災と予知を考える」で紹介されていたのが、フランスの児童文学の代表格、「星の王子様」です。パリのドゴール国際空港などに行くと、日本人などの観光客用に、星の王子様の本が山積みになって売られています。

 

 中学・高校の国語で出てくる作家だと、太宰治でしょうか。富士山は彼の作品で何度も取り上げられていますが、タイトルにもなっている「富嶽百景」が有名ですよね。私が高1の時も国語の教科書に載っていたと思います。

 

 あとお勧めなのが、宮沢賢治の「グスコーブドリの伝記」。昨夏、劇場用にアニメ化されて話題になりましたね。火山にまつわる、運命的なお話です。

 

 日本の場合、富士山を語らぬわけには行きませんね。

 

 今月世界遺産に認定された富士山ですが、実は「火山」として認定されたわけではないのです。前回の世界遺産への申請時には、富士山の「火山」としての重要性を中心に添え、「自然遺産」のカテゴリーで申請したのですが、静岡を中心に240万人の署名が集まったにもかかわらず、失敗に終わってしまいました。そこで、今回の世界遺産登録への申請の際は、もう一つのカテゴリーである「文化遺産」に申請し、その時に前面に出したのが、「(山岳)信仰の対象」と「芸術の源泉」という2本の柱だったのです。この作戦が上手くゆき、富士は見事世界遺産の座を勝ち取る事になります。

 

 山岳信仰はチベット仏教や日本の密教など、世界各地に存在します。自然発生の炎を崇めるゾロアスター教(古代ペルシャが起源;現在でも世界中に信者がいます)は火山関連と思われがちですが、火山の火ではなく、石油や天然ガスが(ペルシャ地方:現イランの)地上に湧いてきた物が発火したものです。火山を対象とする山岳信仰は立山・恐山など日本のほか、インドネシアなどでも見られます。

 

 また、古代ギリシャにもアテネの近くの山に、Delphi(デルフォイ・デルポイ)という世界遺産の火山・温泉地帯があります(下の写真)。ここでは日本の恐山のイタコのように、巫女さんが自分に神や精霊を乗り移させて、神の啓示を聞く、という「デルフォイ の 神託」(Delphic Oracle) という儀式が有名で、今でも欧米の中学・高校で歴史や国語(論理・ディベート)の時間に必ず習う、という物ですが、なかでもソクラテスにまつわる話が有名です。古代ギリシャの都市国家スパルタとペルシャ帝国の戦いを描いた映画「スリーハンドレッド(300)」にも登場しますが、これも史実に基づいており、スパルタが戦争に踏み切ったのも、「デルフォイの神託」として巫女さんが話したアドバイスを 神のお告げとして受け入れ、それに従って行動したためです。

 

 このDelphiですが、多種の火山ガスが霧のように湧いていたそうで、これを吸った巫女さんたちが一種のトランス(幻覚)状態になり、その状態の中から非現実的な世界や未来を観て、予言をしていたのではないかという歴史学者も居ます。数年前、アメリカの教育関連テレビ局、PBS制作の番組の中でこの事が取り上げられていました。以下の日経サイエンスの記事の中でも、このデルフォイの信託と火山学の関係が科学的に解明されています。

 

http://www.nikkei-science.com/page/magazine/0401/delphoi.html


 それでは次に「芸術の源泉」という点を富士山から観てみましょう。富士にまつわる絵画は有名な物だけでも幾つもありますが、私のお気に入りは以下の富士曼荼羅図です(江戸時代の作品)。


 あと、月並みですが、富士の絵画として海外で知られているのは、北斎の作品ですね。

 

 富士山以外の火山と美術の関係は、この授業でも触れました。19世紀にインドネシアの火山が起こした2度の大噴火の際に地球を取り巻いた火山灰・エアロゾルが起こした赤い夕陽に驚いたムンク(19世紀終盤:クラカトア山の噴火後)やターナー(19世紀初め:タンボラ山の噴火後)が描いた作品の代表作がこちらです。

 

 火山を一番多く描いている(有名な)画家は、多分こちら(下のスライド)のゴーギャンではないでしょうか。フランス南部の風景を描いていましたが、長年同居していたゴッホとの訣別の後は南太平洋のタヒチに渡り、人々の生活の様子を描いたことで有名ですが、その中にタヒチの島々を創る火山の絵も多く存在します。


  では最後に、火山災害が噴火後に地元に経済効果を生み出した例を観てみましょう。

 1707年の富士の宝永噴火では富士山周辺だけでなく、江戸の町も火山灰による被害を受けましたが、翌年になると夏を中心に富士山への登山者が1万1千人も増えたのだそうです。「富士山の山麓が噴火して、大きな噴火口が出来たらしい。」という話が江戸の町にも伝わり、多くの人が見物に訪れたのです。

 

 また、ハワイ島も1980年代には大きな噴火が相次ぎ、溶岩で覆われた道路の整備など、財政面でも苦しくなったのですが、そこで機転を利かし、火山の噴火や溶岩の様子を観光客に見せる事によって地元経済を活性化させようという事になり、それが成功しただけでなく、ハワイ観光の大きな目玉として今でも続いています。

 

 日本だと有珠山が災害後の様子を目玉に防災テーマパークとして町を改造し、ジオパークの国内第一号として登録が認められてただけでなく、先進国首脳が集結する洞爺湖サミットの誘致にまで成功したのです。脱帽もんです。災害にあった雲仙だけでなく、阿蘇山などにも防災関連の博物館やジオパークが近年次々と作られ、新しい観光と教育、地域づくりの形を作り始めています。

今週 の おまけ

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